
わたしはふだん、天然香料を使ってオリジナルの香水を作っています。
今回は、絵画から学んだことを香りの創作にどのように活かしているか、お話ししたいと思います。
この記事では、「天宇受売命(アメノウズメ)の香り」という香水の創作につながった、絵画からのインスピレーションについてご紹介します。
絵画の世界から受けた感動や学びが、どのように香りの発想とつながっていくのか、そのプロセスを皆さまにお伝えできればうれしいです。

天宇受売命(アメノウズメ)の香り 30ml
モネの『積み藁』:光と色彩への探求
本日取り上げるのは、クロード・モネの作品、『積み藁』です。

クロード・モネ - https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4376108 による
この『積み藁』は、モネの『睡蓮』と同じく、たいへん有名な連作として知られています。
モネが遺した作品は、油彩画が約2,000点、デッサンが約500点、パステル画が約100点にもおよぶと言われています。
その中でも特に有名な『睡蓮』の作品群は、約300点にもなります。
ちなみに、『積み藁』の連作は30点です。
この数を知り、わたしも調香についてもっと学び、経験を積まなければと、あらためて感じました。
一つのテーマをこれほど深く、多角的に追求するモネの姿勢から、調香師として、一つの香料やコンセプトに対してどれだけ向き合えるか、という大切な示唆を得たように感じます。
「瞬間性」を追い求めて
モネは、この『積み藁』の連作について、1890年10月に友人のジェフロワへ次のような手紙を送っています。
「積み藁のさまざまな光の連作に夢中なのですが、近ごろは日が早く沈むので、追いつくことができません。
しかし描き進めるにしたがって、わたしが求めているもの、『瞬間性』、とりわけ物を取り囲む大気と、いたるところに輝く均一な光、を表現するためには、もっと努力しなければいけないことが分かるのです。」
この手紙からは、移りゆく光を捉えきれないもどかしさと、それでもなお理想とする表現を追い求める画家の真摯(しんし)な姿が浮かび上がります。
いたるところに光は差し込みながらも、均一に輝く光。
それは、捉えようとしても捉えきれない、はかない美しさの象徴なのかもしれません。

香りの「光彩」を操るということ
この光の探求は、香りを創ることにも通ずると思います。
どこから香りを放つのか、どの角度で植物の持つ輝き(香り)を引き出すのか。
香りの世界も、単に香料を「混ぜ合わせる」だけではありません。
それぞれの香料が持つ輝きや奥行きを、どのように引き出すかでまったく異なる印象が生まれます。
まるで絵画で光の当て方を工夫するように、香りの「光彩」を巧みに操ることは、調香師にとっても追求したいことです。
モネの『積み藁』が持つ温かさは、わたしの中で、天宇受売命(アメノウズメノミコト)のイメージに重なりました。
日本神話に登場する芸能の神様である天宇受売命は、明るく力強い存在です。
人々を惹きつけ、場を和ませるような温かさを持っています。

天細女尊(『神仏図会』)
夕日の柔らかな光に包まれた『積み藁』が温かい輝きを放つように、『天宇受売命の香り』が空間を満たし、心に安らぎをもたらす。
そんなイメージを香りに込めました。
光の当たる角度によって『積み藁』の絵の印象が変わるように、香りにもさまざまな表情があります。
その香りの光の角度の引き出し方は、これからもモネの作品から学ばせていただこうと思っています。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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