そこで今回は、明治天皇の玄孫であり、さまざまなメディアで活躍されている、作家の竹田恒泰先生から、「日本人にとって天皇とは何なのか?」を伺いました。
(前篇はこちらから
👉竹田 恒泰×小名木善行|天皇って何ですか?【前編】)
天皇に祈る義務はない
竹田:ところが、なぜ天照大御神は「あなたは地上世界に降りて、国民の幸せを祈れ」と言わなかったのか?
天皇は祈る存在だから、国民の幸せを祈るという神勅があってもおかしくないですよね。
結論から言うと、天皇の祈りは自発なんです。
つまり、憲法にも法律にもどこにも書いてないし、古事記・日本書紀にも書いてないんですよ。
古事記に書いてあるのは「お知りになりなさい」だけなんですね。
ですから、「祈る」というのは天皇にとって義務ではないのです。
ただ、天皇の義務を古事記から読み取れるのは唯一、「国・国民の事情を広く深く知りなさい」ということなんですね。
よくよく考えてみたら、知ると祈りたくなるんですよ。
祈ると知りたくなる訳ですよね。
国民が天皇を敬愛する気持ちも「シラス」から
竹田:上皇陛下もずっと、御在位中も日本全国のあらゆるところにおいでになって、その地域でどんな取り組みをしているのか?
どんな問題があるのか?
災害の復興状況はどうなのか?
色々なことに興味をお持ちになって、お知りになる。
そして、その気持ちで祈るのです。
さすが天照大御神だなと思うのは、「祈れ」ではないんですよね。
「知りなさい」という直命を下したところがスゴイなと思う訳です。
ですので、天皇はひたすら知るということは義務ですから、国民のことを知り、国家のことを知る。
隅々まで知るのは2000年に渡る歴代天皇の義務ですよね。
その結果、祈る天皇の姿となり、私たちのことをひたすら祈って下さる、天皇のことをみんなで深く敬愛するという、そういう国柄になっていった訳です。
「天皇とは何か?」ということを一言で説明するのはなかなか難しいですけれども、「日本は天皇がシラス国なんだ」というのは、最も確度の高い説明なんだろうなと思うんです。
和歌で国民を知る
小名木:でも、それがあるから、例えば万葉集4,500首など、ほとんどの歌が一般庶民の歌なんですね。
別に御皇族・貴族の歌だけでも良いんですよね。
でも、一般の庶民の防人(さきもり)の歌があり、おっちゃん・おばちゃん・お姉ちゃん・お兄ちゃんの歌がある。
それはやっぱり、全てお知りになるため。
竹田:その通りですね。
まさに毎年行われている「歌会始(※)」もその一環ですよね。
宮中の「歌会始の儀」のこと。毎年1月10日前後に皇居宮殿松の間にて行われ、入選者や皇族方、天皇皇后両陛下の歌が披露される。
毎年お題が示されて、日本人であれば誰でも歌会に歌を送ることができる訳ですね。
これは選ばれると、まず歌会始めに招かれます。
その後、御所に招かれてお茶会に出席が出来ます。
そして、天皇皇后両陛下から「この歌はどういう場面ですか?」などの御下問(ごかもん)を頂くのですね。
普通、内閣総理大臣や国務大臣になったり、勲章授与ぐらいでないと、なかなか陛下のお茶会には行けないのです。
ですけど、本当にわずか数人の受賞者が親しくお茶会に招かれる訳ですよ。
良い歌を読めばそこに行けます。
天皇陛下に会えるかも?歌会始の傾向と対策
竹田:ここで傾向と対策ですが、小難しい言葉を使う必要はありません。
国民の等身大の日常の風景が切り取られたような歌が入選しているんですね。
何万首も応募があるんですが、奥から聞くところによりますと、全部の和歌を陛下がお詠みになっていらっしゃるんです。
国民が陛下に手紙を書いても、普通は御前に上がらないでしょう。
でも和歌を読めば、必ず陛下のもとに上がる訳ですよね。
ですから、何万もの人々の和歌を陛下がお詠みになる時に、多くの喜びや悲しみや苦悩やら取り組みといった、色んなものを感じ取る機会になっているのです。
それが昔では勅撰和歌集という形でまとめられていましたし、今は、誰もが和歌を詠んで応募することができ、毎年、勅撰和歌集を作っているようなものです。
歌会始というのは、歴代天皇が知るということに物凄く情熱を燃やし、努力をなさっていらした証ですね。
やっぱり「天皇とは何か?」を語る時には、「シラス」が根幹に来るんだろうなと思います。
小名木:分かりやすく雰囲気の見える歌ですね。
本当に職業やその人、光景が見えてくるようなものが選ばれる。
それは同時に、陛下が望まれている日本人の一般の姿です。
ごく当たり前の日常の中で、みんな誰もが幸せを感じてくれる。
そういった国柄をやはり大切にされているということですね。
竹田:そういうことですね。
小名木:我々日本人にとって「天皇とは何か?」は、そうそう簡単な答えをパッと見つけられることではない。
「日本とは何か?」と聞かれても、日本人は1億2,600万人いて、みんな考え方が違います。
でも、日本人なんです。
それと全く同じことだというのが、今日の竹田先生のお話だと思います。
竹田:ありがとうございました。
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