わたしはふだん天然香料を使って、オリジナルの香水を作らせていただいています。
今回は、絵画から学んだことを香りの創作にどう活かしているか、について「白山の香り」を題材にお話ししていきます。

白山の香り 30ml
表現のヒントを求めて、一枚の絵画へ
じつは、「白山の香り」の制作は、「くくり」というテーマをいかに香りで表現するか、という点で試行錯誤の連続でした。
詳しくは「迷いが晴れて〝天命〟に生きる〜「白山の香り」が生まれるまで〜」のコラムに書かせていただきました。
表現のヒントを探していたとき、わたしは一枚の絵画に心を奪われました。
それが、スペインの巨匠ディエゴ・ベラスケスが描いた『ラス・メニーナス(女官たち)』です。

この作品は、芸術の原理を示しているともいわれる、たいへん有名な絵画です。(お恥ずかしいことに、わたしは最近まで知らなかったのですが……)
この一枚の絵画との出会いが、「白山の香り」の方向性を決めるきっかけとなったのです。
視線を操る構図:ラス・メニーナスに隠された秘密
この作品のすごさは、その巧みな構図にあります。
注意深くみていくと、キャンバスと同じ比率の長方形が入れ子のように配置され、鑑賞者の視線を自然に絵の奥へと導いていきます。
そして、その視線の終着点、構造上もっとも重要な位置に描かれた鏡には、この絵の世界で一番身分の高いスペイン国王夫妻が映り込んでいます。
単に大きく描くのではなく、鑑賞者の視線がごく自然に、もっとも重要なモチーフへと向かうように巧みに計算されているのです。

香りの構成への応用:「白山の香り」の骨格
この「鑑賞者の視線を自然に導く」という考え方に、わたしはハッとさせられました。これを香りの世界に応用できないだろうか、と考えたのです。
一般的に、香水の香りの変化は、ピラミッドのような三角形で表現されます。
「白山の香り」のテーマは「くくり」。 そこで、香りの構成を単なる三角形ではなく、ラス・メニーナスの絵画のように奥行きのある「三角錐」として捉えることにしたのです。
その頂点から香り立つものが、トップ、ミドル、ベースのそれぞれの要素が複雑に絡み合い、調和した香りとして立ち現れるように……。
ラス・メニーナスが鑑賞者の視線を導くように、「白山の香り」もまた、香りをまとうひとの意識を、その奥深い世界へと自然に誘うことを目指しました。
芸術作品から学ぶ、表現の深み
黄金比率や構図の技法、あるいは表面的な技術だけでは、作品が持つ独特の空気感までを完全に再現することはできません。
しかし、その空気感をかたちにするためには、ありとあらゆる知識や技術、そして感性の「引き出し」を持っておくことが不可欠です。
それらがなければ、作品の持つ繊細なニュアンスや、目には見えない美しさを表現することはきわめて難しいのだと、この【ラス・メニーナス】という一枚の絵画が教えてくれているように感じます。
名画から得られるインスピレーションは、香りの世界にも新たな可能性をもたらしてくれます。
これからも、芸術作品に触れながら、その奥にある本質を見つめ、得られたエッセンスを香りの創作に活かしていけるよう、探求を続けていきたいと思います。

白山比咩(しらやまひめ)神社の空気をイメージした香り。
菊の静けさ、山吹の陽だまり、藤の優しさが、
揺れる感情にそっと寄り添って
心を晴れやかに明日へと導いてくれます。
すがすがしさの中に柔らかさを感じさせ、
相反するものをすべて包み込むような、優しい香りです。
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