こんにちは。講師のよなたんです。 今回は、塾でおこなったモチベーションアップの会のようすをお届けします。
先日、「キング牧師の『I have a dream』の演説がなぜ歴史を変えたのか?」というテーマで会をおこないました。
キング牧師の演説を暗唱する勉強法は、
- 格調が高くたいへん質のよい英文であること
- 当時の歴史的背景も学べること
- キング牧師の高い志にふれてモチベーションもアップすること
といったメリットがあります。
この会では、当時の歴史的背景を知っていただくことで、
キング牧師の演説がよりリアリティをもって音読できるようになることをねらいました。
マットが語るキング牧師演説のすごさ
一緒に会をおこなってくれたのは、スタッフのマットです。
マットはお父様がアメリカ人のハーフです。バイリンガルですが、育ったのはずっと日本だそうです。 大学はICU(国際基督教大学)で、キリスト教神学を専攻していました。
マットも受験生のときにこのキング牧師の演説を暗唱して勉強していたそうです。 彼自身、キング牧師の演説とその想いに感化され、その後の人生観が変わるほど、よい影響を受けたそうです。
バスボイコット運動
人種差別の歴史は、たいへん根深いものです。
大航海時代、コロンブスやマゼランといった征服者(コンキスタドール)による支配から始まり、1863年に奴隷解放宣言がおこなわれた後も、じつは黒人差別がなくなることはありませんでした。
当時のアメリカでは、「白人専用シート」という座席があり、バスに乗る際、黒人はこの白人専用シートに座ることができませんでした。
ある日、ローザ・パークス女史がバスに乗り込んだところ、席は満席でした。 空いていたのは白人専用シートだけだったのです。
そこでパークス女史がその席に座ったところ、運転手から「すぐに席を降りなさい」と言われました。 パークス女史はそれを拒否しました。
すると、それだけでパークス女史は逮捕されてしまったのです。
(パークス女史が逮捕時に乗っていたバス。ヘンリー・フォード・ミュージアムに展示されています。)
(当時のローザ・パークス女史)
この出来事をきっかけに、当時26歳だったキング牧師たちが立ちあがり、バスへの乗車を拒否する運動を始めました。
これが後に「バス・ボイコット運動」といわれるようになったものです。
当時、アメリカのバス利用客の3分の2は黒人の方々でした。 その彼らがバスに乗らないとなると、バス会社も運営がたいへん厳しくなります。
やがて連邦最高裁判所は、この人種差別的な扱いを違憲と判断しました。
バス・ボイコット運動の成功です。 このようにして、キング牧師たちは暴力に訴えることなく、公民権を獲得していったのです。
パークス女史を前進させた、知られざる少年の悲劇
ここで、じつは多くのひとが知らない、「少年ティル」のことを紹介させてください。
キング牧師やローザ・パークス女史は、文字通り、命がけで公民権運動を進めました。 しかし、その背後には、ある知られざる少年の存在があったのです。
それが、アフリカ系アメリカ人の少年、エメット・ティルくんです。
1955年8月28日。 エメット・ティルという14歳の黒人少年が、白人女性に声をかけたとされる疑いをかけられ、リンチの末に殺害されるという痛ましい事件が起きました。
この事件は映画にもなっています。
彼の遺体は、ここで書くのがはばかられるほど凄惨なものでした。 しかし、彼の母親は、むごい姿となった息子の遺体を報道陣に向けて公開することを許可したのです。 そのようすがメディアによって報じられ、アメリカじゅうの国民がその悲惨さを目の当たりにしました。
この事件の後、公民権運動は大きなうねりとなり、黒人差別に対する批判がいっそう強まっていきました。
ローザ・パークス女史は、バス・ボイコット事件のことを振り返るとき、こう言い残しています。
「バス・ボイコット事件の際、わたしはエメット・ティルのことを考えました。そのとき、わたしは後ろに下がることができませんでした」
ティル少年の死から8年後の1963年8月28日。
ワシントン大行進がおこなわれました。
そうです。 キング牧師の「I have a dream」の演説がおこなわれた、まさにその日です。
その日は、罪なくして天に召されたティル少年の命日でもあったのです。 キング牧師はその日に、あの歴史的な演説をおこないました。
I have a dream that one day on the red hills of Georgia the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.
わたしには夢がある。 いつの日か、ジョージアの赤い丘のうえで、かつての奴隷の子孫たちと、かつての奴隷所有者の子孫たちが、兄弟として同じテーブルにつき、ともに座ることができるという夢が。
(キング牧師『I Have a Dream』より / ワシントン大行進 1963年)
キング牧師やその仲間たちは、このようなひどい事件があったとしても、それを憎しみに変えることなく、また暴力に訴えることもありませんでした。 言葉の力で、仲間との団結によって、そして世界じゅうのひとびとの良心に訴えかけることによって、公民権を勝ちとっていったのです。
2022年、アメリカでは人種差別にもとづくリンチを「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」として罰する法案が成立しました。
この法案は「エメット・ティル反リンチ法」と名づけられました。
たくさんの悲しみがあり、数え切れないほどの犠牲がありました。
しかし、それでも彼らが戦ってきた歴史、紡いできた想いは消えることはありません。
そして、わたしたちはその想いをけっして消してはならないのだと思います。
彼らの想いをすべて背負い、キング牧師はあの夏の日、それでもなお、
「I still have a dream」(それでも、わたしには夢がある。)
と、声高らかに宣言したのです。
塾生のなかには、彼らの生きざまを聞くうちに、自然と涙をこぼす生徒もいました。 わたし自身も、じつは話しながら、何度も胸が熱くなる場面がありました(笑)。
この感動や情熱を胸に、演説に臨んでほしい。 そして、不正をくじき、弱い立場の人を守る、そんな志をもったひとになってほしい。
そういった想いで、キング牧師の演説を解説させていただきました。
このように、ミスターステップアップでは、勉強するモチベーションが高まるような、熱い話をしています。
ただ、大学に行くための勉強ではなく、一生学び続けるための目的意識や志をもった受験生になってほしいと願います。
…日常の出来事をつづるブログのはずが、いつのまにか真剣な話になってしまいましたね(笑)。
みなさまのなかで、キング牧師の演説を勉強する際の参考になれば幸いです。 それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました。