
わたしはふだん天然香料を使って、オリジナルの香水を作らせていただいているのですが、本日は絵画の構成から学んだことを、香りの創作にどのように活かしているか、お話ししたいと思います。
今回のテーマは、自分自身の弱さと向き合い、前に進むちからを与えてくれる「建御雷神(タケミカヅチ)の香り」です。
この香りの制作にあたってヒントとなった、もう1つの絵画を紹介いたします。

建御雷神の香り(30ml)
前回の記事 「建御雷神(タケミカヅチ)の香り」創作秘話:ルドンの絵画から得たヒント はこちらから。
エコール・ド・パリの画家、モイズ・キスリング
モイズ・キスリング(1891-1953)は、ポーランドの古都クラクフで裕福な仕立屋の息子として生まれました。
明るく鮮やかな色彩で、異国情緒あふれる女性像を描くことで知られ、エコール・ド・パリを代表する画家の一人です。
※ エコール・ド・パリとは、1920年代ごろのパリで制作活動をしていた、出身国も画風もさまざまな芸術家たちの総称です。当時のパリにはたくさんのギャラリーが軒を連ね、大規模な展覧会も毎年数多く開催されており、まさに世界の芸術の中心地と呼ばれていました。
違和感から生まれる神秘性
キスリングの作品を拝見して、わたしが特に印象的だったのは、「違和感があるからこそ、かえって神秘的に感じる」という点です。

Moïse Kisling モイズ・キスリング 『オランダの女性』
https://kininaruart.com/artist/world/kisling.html
たとえば、描かれた女性像は、全体として女性的な柔らかさを持っているように見えます。
しかし、その肌の明暗のコントラストは、ときに力強く描かれているのです。
その一見相反する要素の組み合わせが、わたしにはとても神秘的な印象を与えるように感じられました。
また、今回の鑑賞を通して、「何を強調するのか」ということ、そして「強い」という表現にも、じつにさまざまな側面があるのだと、あらためて気づかされました。
香りの表現への応用:建御雷神の香りの試作に向けて
「建御雷神(タケミカヅチ)の香り」は、光や稲妻のような【強さ】を一つのテーマとしています。
具体的には、二つの方向性です。
一つは、稲光のような瞬間的なエネルギーをとらえ、それを香りに凝縮させるような表現。
(まるで音と光がずれて届くように、その強烈な一瞬を香りで切り取れたら、と考えました。)
もう一つは、何かを守るための、大地のような揺るぎないエネルギーとしての「強さ」を表現する方向性です。
稲光のような一瞬のきらめきと、大地を支える永遠の力。
この二つのエネルギーを融合させて生まれたのが、「建御雷神(タケミカヅチ)の香り」です。

【功徳】大事なものごとを守り続ける、継続力
タケミカヅチの神様は高天原(たかあまはら)で随一(ずいいち)の武神であり、刀の神様です。
古来、刀は武器ではなく神の言葉(御神託:ごしんたく)を受けるための武器でした。
名刀ほど、切るためではなく大切なものを守るために作られたのです。
そして、刀を司(つかさど)るタケミカヅチの功徳も、堅い守りを授けること。
時間をたてば忘れてしまいがちな 熱い初心に立ち返らせてくれる香りです。
香りの特徴
トップはマートル、クラリセージ、メリッサとピリッとしたハーブ調の香り。
そこから不屈の精神を現すジュニパーベリーの、透き通るような香りの中に少しほろ苦さをあわせもつ精油が香り...
最後はペルーバルサムという少しバニラのような甘さをもつ優しくて力強い香りへと姿を変えていきます。
雷が闇夜(やみよ)を切り裂いて空気を浄化するように、不安や恐れ、自分自身の弱さと向き合い、それでも前に進み続ける力強さを表現しました。
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