
わたしは、ふだん天然香料を使って、オリジナルの香水を作らせていただいています。
本日は絵画の構成から学んだことを、香りの創作にどのように活かしているか、少しお話しさせていただきたいと思います。
今回は、「建御雷神(タケミカヅチ)の香り」を調香するにあたってヒントとなった絵画を紹介いたします。

建御雷神の香り(30ml)
オディロン・ルドン『目を閉じて』
今回は、19世紀末の絵画が、香りのイメージを広げてくれました。
ご紹介したいのは、画家オディロン・ルドンが1890年、50歳の時に描いた『目を閉じて』という作品です。

オディロン・ルドン『目を閉じて』 https://ja.m.wikipedia.org/
この作品は、ルドンにとって初めて、国家買い上げとなった記念碑的な一枚でもあります。
(絵画が国家買い上げになることは、その絵画が文化財として価値が高い、または社会的に重要な意義を持つと国家が判断した場合に起こります。)
描かれているのは、ルドンが「わたしは妻の中に生涯の運命の女神を見出した」と語った、最愛の妻カミーユだそうです。
ルドンの作品には、しばしば目を閉じた人物が登場します。
彼にとって、目を閉じて瞑想することは、人を内なる思索の世界へといざなう、とても大切な行為でした。
この『目を閉じて』は、まさに人間の無意識や内面の世界を描き出そうとした、ルドンの芸術を象徴する作品です。
逆光から得たインスピレーション
さて、今回わたしは、タケミカヅチの香りを調香する機会をいただきました。
タケミカヅチと聞くと、光、雷、鋭さ、といった力強くシャープなイメージが浮かびます。
ですが、わたしはあえて、その正反対ともいえる「逆光」の中で描かれたこの『目を閉じて』から、何かヒントが得られないかと考えました。
境界線が曖昧に描かれていることで、この絵は神秘的で内省的な雰囲気を醸し出しています。

曖昧に描かれる境界線
タケミカヅチには雷のような鋭いイメージがありますが、その激しさの奥にある深い静けさにも着目しました。
ルドンの『目を閉じて』に描かれた、逆光の中の女性の静かな表情...。
その神秘性や幻想的な雰囲気は、神聖な存在を香りで表現する上で重要な要素だと感じました。
この絵が、鑑賞者自身の内なる対話や心の奥にある物語を引き出すように、わたしたちも自身の内なる声に耳を澄ませることで、進むべき道への覚悟が決まるのではないでしょうか。
香りの構成としては、まずその揺るぎない意志を一本の筋として描き、最後にペルーバルサムの柔らかな甘さで優しく後押しするイメージで仕上げました。
こうして完成したのが、こちら「建御雷神の香り」です。

【功徳】大事なものごとを守り続ける、継続力
タケミカヅチの神様は高天原で随一(ずいいち)の武神であり、刀の神様です。
古来、刀は武器ではなく神の言葉(御神託:ごしんたく)を受けるための武器でした。
名刀ほど、切るためではなく大切なものを守るために作られたのです。
そして、刀を司(つかさど)るタケミカヅチの功徳も、堅い守りを授けること。
時間をたてば忘れてしまいがちな 熱い初心に立ち返らせてくれる香りです。
香りの特徴
トップはマートル、クラリセージ、メリッサとピリッとしたハーブ調の香り。
そこから不屈の精神を現すジュニパーベリーの、透き通るような香りの中に少しほろ苦さをあわせもつ精油が香り...
最後はペルーバルサムという少しバニラのような甘さをもつ優しくて力強い香りへと姿を変えていきます。
雷が闇夜(やみよ)を切り裂いて空気を浄化するように、不安や恐れ、自分自身の弱さと向き合い、それでも前に進み続ける力強さを表現させて頂きました。
> 建御雷神の香り(30ml)はこちらから